なつやすみ日記

猫のような日々

ステロイド合衆国感想とアトピー性皮膚炎の話

 

http://oreno-memo.hatenablog.com/entry/2014/03/29/135307

http://cinema-gohan.sblo.jp/article/64223284.html

 

映画のタイトルからするとステロイドの危険性を訴える内容と思わせるがそうではなかった。科学的に危険であるという明確な証拠はないというのだ。また劇中で登場するステロイド危険派の説明があまりにも科学的ではない。ストロイドは危険だからの一点張りである。

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しかし、この危険派で登場する専門家の印象が随分悪いうえに、ホントに科学的根拠があるのかどうか疑わしいのだ。

http://cinema-gohan.sblo.jp/article/64223284.html 

ステロイド合衆国~スポーツ大国の副作用~シネマごはん

ステロイド剤を始めとして多くの薬物に明確な危険性があることはわからない。むしろ、そうした薬物によって助かっている患者がいる。体内のホルモンバランスが崩れているHIV患者などだ。ストロイドで死ぬ奴なんか食物アレルギーで亡くなるのと同じくらいなものだと主張する人物も出てくる。ピーナッツ食べても死ぬ奴はいる、それに比べたら多くの人が助かっているじゃないか・・・と。

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 映画の主旨は米国における過度な競争主義、ナンバーワンになるためには手段を選ばないという文化のために、ステロイドに限らず危険性が高い薬物ですら、平然と使われていることを危惧している。例えばそれは勉学、芸術、運動に使用され、究極的には軍隊でも使われている。集中力を高める、記憶力を高める、精神統一のため・・・。

長時間や集中力を要する任務の際に、軍から支給される合法シャブを服用。

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http://oreno-memo.hatenablog.com/entry/2014/03/29/135307

シャブ漬け大国アメリカ - 『ステロイド合衆国~スポーツ大国の副作用~ 』俺のメモ

しかし、覚せい剤に似た成分が精神障害者向けの治療薬として使用されている側面もある。その治療薬で助かっている患者も多くいる。毒と薬は表裏一体で何を持って悪いと決めるのは難しい。科学的に見ればステロイド剤を身体に注入してもそう簡単に死ぬようなことにならないことは確かだ。この映画の面白いところは科学的に物事を片付けようとする人達がいる一方で、インテリジェント・デザインという思想をもつ人々が登場する。インテリジェント=知性ある、人間は知性ある何者かによって設計されたという思想だ。

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知性ある何者とは神様のことであり*1、 人間は神に作られた、つまりそれは猿から人間が進化したという説を否定することになり、進化論を支持していない思想である。一般的にはかなり問題がある思想と言われていて批判も多いが、数々の薬物(ときには違法なものを使って)を使って身体を鍛える改造人間状態の息子達に向かって「神に与えられた身体に満足しなさい!」というのは妙に説得力がある。息子達も薄々おかしなことだと思いつつも薬物を投入しつ続ける、それは米国的な競争社会とインテリジェント・デザインというアンビバレントな感情の板挟みになっていることだからだ。もし、どちらかに割り切ればそうした感情は無くなるだろう。でも、彼らにはそれは無理だ。なぜなら米国人だからだ。米文化における科学と非科学性の側面がこの映画にはよく現れている。「あの意見は科学的ではない!」と断言した科学者が結局倫理的側面から薬物の使用を考えてしまうシーンが印象的だったように。

 

--閑話休題--

 

僕はアトピー性皮膚炎患者だ。アトピー性皮膚炎は幼少期に発症しやすく、治療にはストロイド軟膏を患部に塗布することが一般的だ。一般的に患者の成長が進むにつれて症状が収まっていくとされているが、近年、大人になっても症状が治まらない人達が増えてきているとされる。僕もその一人だ。大抵、そういう人達は子供の頃から皮膚科に通院していてステロイド軟膏を処方してもらっているが、それで治らずに様々な治療方法を試していくことになる。漢方、紫外線療法、保険適用外の塗布薬・・・エトセトラだ。子供の頃からずっと試していて治らずにいれば他の方法を試すのは当然だろう。

 

だけど、そういった治療は医学的には効果的ではないことが多い。結局、効果的な治療方法はステロイド軟膏になってしまう。ただ、使い方が難しいため効果が出にくいと感じてしまう患者が多いとされている。「1FTU(人差し指の指先から第一関節までの軟膏量)は大人の手のひら2枚分」がステロイド軟膏の使用方法だが、つまり、それはもし全身の皮膚が荒れている場合は一回の塗布量はチューブ一本分丸々使い切るという意味になる。そして患者は皮膚が健全か不健全か判断出来る立場ではないということだ。医者から見れば塗布すべき患部も患者には必要ないと判断される場合がある。ここがアトピー性皮膚炎の治療の難しいところだ。患者は悪いと思う部分にほんの少しだけ塗布する、インターネットにはステロイド軟膏の恐ろしい副作用があるという情報がわんさか!*2

http://www.a-to-pi.com/major/nurigusuri01.html

http://www.a-to-pi.com/major/nurigusuri01.html

 

一度に一本丸ごと使ってしまうなんてもったいないと感じるのが自然だろう。皮膚科医から見ればそうしたほうがいい患者のほうが多く、つまるところ適切な治療指導をすることが大切だと僕が通っている先生に言われたことがある。その先生は東京都西多摩で名医と言われている先生で、僕はいろいろな治療方法を試したが効果がなく、当時通っていた大学から病院が近かっため、藁にもすがる思いで行ってみたというわけだ。そこで適切な指導と治療を受けてぼくの人生の中で皮膚は最も良い状態を保っている。でも、ステロイド軟膏での治療だ。

 

インターネットで「アトピー ステロイド」「アトピー 治療方法」「ステロイド軟膏」とググると怪しいページが沢山出てくる。もちろん医学的に根拠があるページも表示されるのだけど、ステロイド軟膏が危険であるという内容のWebページは非常に多い。 医学的知識が乏しい一般人がはたして正しく判断出来ることなのだろうか?*3皮膚科医が患者に永続的に使わせるためにストロイド軟膏を処方するという陰謀論まである。

 

アメリカにおける陰謀論を分析している「UFOとポストモダン」という新書がある。本書によると冷戦終結以前は明らかに根拠が欠けた怪しい噂ばかりだったが冷戦以後はその事情が一変したと筆者は説明している。 

「空飛ぶ円盤や宇宙人やそれにまつわる陰謀などは、確かに根拠を欠いたただの神話だったのかもしれない。しかし、Y2K環境ホルモンやテロリストの存在ははるかに客観的な証拠が存在する現実的存在だから、神話とは呼べないのではないか」と。

〜中略〜

ところが現在は現実そのもののとらえ方が多様化していて、かつ、それが異常な事態とみなされるのではんく、当たり前のこととなっています。環境ホルモンY2Kの影響の大きさについても、あれらのテロリズムの位置づけ(イスラム原理主義的?反グローバリズム的?反米的?狂信的?)や対処法についても、誰もが知る通り、人によって見方がさまざまです。専門家と呼ばれる人たちの意見も同じことです。一般の人の意見は多様でも専門家の意見は一致することが当たり前、と思われていた時代は、過ぎてしまいました。「私」が見る環境ホルモンY2K、あるいはテロリズム)問題は、他の人が見るそれとおそらく一致しないでしょうし、「多くの人や多くの専門家の意見が一致している」と前提することもできません。

以前なら、一般的に前提される、ある一つの「現実」に対して複数の「個人的価値観」が存在していましたが、現在はそれとは逆に、「個人的価値観」に基づいて各人が自分の好きな「現実」を選び取っていると言えるかもしれません。環境ホルモンに関する一定の見解があってそれを各個人が判断して意見が割れているわけではなく、環境ホルモンという得体の知れないものに対する各個人の多様な意見が先にあって、その後で、それぞれ自分の意見と合致する研究者の見解に肩入れしているというのが実情に近いのではないでしょうか。 

〜省略〜

UFOとポストモダン (平凡社新書)

UFOとポストモダン (平凡社新書)

 

P184~188

 ピーナッツアレルギーは全人類が持っているわけではないが、一部の人間が死ぬことは事実だ。アレルギーによる事故死はまだ医学的な明確な証拠があるかもしれないが、映画でもステロイド剤の長期使用に副作用は不明だと言っていた。専門家による推測はバラバラだ。福島の原発事故における放射能被害も専門家によって意見はバラバラだ。もちろん、限りなく意見として正しいものはあるが100%正しいとも言えない。トンデモ意見で風評被害に直結するようなものですら100%間違っているとは言えない。なぜなら、それによって起こりうる現象を誰も(専門家ですら)確認することが出来ないからだ。故に放射脳と揶揄されるヒステリックな人々が出てくるのかもしれない。*4

 

アトピー性皮膚炎を治療するステロイド軟膏に関してもおそらくそういったストーリが支持されるような基盤が出来ているのだろう。歪なまでに筋肉を増加させるステロイドの悪いイメージがステロイド軟膏に変移しているのかもしれないし、治療方法を間違えた患者をターゲットにしたビジネスのためのストーリーかもしれないし、前述のようにトンデモ専門家達の意見が通りやすい社会だからかもしれない。*5

 

どうあれ、アトピー性皮膚炎にまつわる様々なストーリーに踊らされ続けた結果、お金や時間をたっぷり浪費したあげく、最終的に一般的な治療方法であるステロイド軟膏になってしまったのは皮肉そのものだと思っている。見えないものほど不安になりやすいから仕方ないけどね。

*1:ときたまそれが宇宙人になったりするのが米文化論の面白いところ

*2:皮下注射、筋肉注射、経口投与と比べても圧倒的に安全にも関わらず

*3:高学歴の知人ですらステロイド軟膏というと抵抗感を顔に出す人がいる

*4:というかそんなこと確認出来たら神の領域に達する。外出して宇宙か飛来した隕石にぶつかって死ぬ可能性は100%否定出来る人などいるのだろうか

*5:検索結果を見ると医学的根拠を持たない一般人らしき人の意見のほうがGoogleSEOに強いのは非常に興味深いけど