大卒ニートが戦場に行くドキュメンタリー『ポイント&シュート』
Netflixで鑑賞。サブスクリプション・サービスの性質上仕方がないのかもしれないが、サブスクリプションは古い映画や売れなかった映画、市場的価値が死んでいる作品がラインアップされている。ただ、ドキュメンタリー映画に限っては最近の映画もそれなりに揃えてある。
日本の映画市場でドキュメンタリー映画はニッチなジャンルだ。ほんの少し前に映画評論家の町山智浩さんが『未公開映画を観る』という番組企画を放送していたのも記憶に新しい。映画という言葉を聞くとフィクションを思い浮かべるのが一般的だろう。『未公開映画を観る』はドキュメンタリー映画を鑑賞する番組企画だったのだ。
ニッチで市場的価値が低い、それがドキュメンタリー映画だ。そのおかげでNetflixなどのサブスクリプション・サービスに日本未公開のドキュメンタリー映画が多くラインアップされているのだろう。
ポイント&シュートはどのような映画か。
ポイント&シュートは文系の大学卒業ニートのマシュー・ヴァンダイクのセルフキュメンタリーだ。彼は友達がいなくて自室でオンラインゲームをずっとやり続けるようなタイプ、つまりナードと言われる類の人間である。世界中をバイクで旅をしながら映画を撮ろうと思った。あわよくば有名になりたいという功名心もあったと映画内で吐露している。失うものが無い身分、功名心、それを満たしてくれるそうなSNSなどのWebサービス、ただの大卒ニートが気づいたらリビアで自動小銃を抱えていた。リビアの解放運動に参加したのだ。
母国で自分語りをするマシュー・ヴァンダイク氏。
如何にもオタク、ナード、ギークという言葉を連想する風貌だ。
戦場経験をしたマシュー・ヴァンダイク氏
顔つきがまるで違う。別人になってしまったのではないだろうと疑いたくなるほどだ。比較してみると笑ってしまうほどだ。変人が戦場に行くとここまで変わってしまう。日本人にも彼のような人物がいる。無謀な勘違いの果てに戦場に向かい現地の兵士に捕まり処刑されてしまった湯川遥菜氏という人物を覚えている人もいるだろう。
無謀な行動を取り続けるマシュー氏も現地で政府軍に捕まり、劣悪な環境で6ヶ月間監禁されている。もちろん米国政府は彼を助けようとしていたが外交途絶中の政権と交渉は難航。彼は死を待つのみだった。運が良いことに反政府軍が収容所を襲撃し、混乱の隙に脱獄することができた。ようやく母国に帰れるはずだったが、反政府軍のおかげで命拾いをしたから彼らに恩返しをする義務があると。そして、リビアに残ることを決意するのだ。
ジャーナリストに母国に戻れと説教されるマシュー・ヴァンダイク氏。
彼は反政府軍に協力し銃を撃ちまくり、帰国後は映画も公開することでき、米国で平和に暮らしているそうだ。故人のことを悪く言うのは不謹慎かもしれないが、湯川遥菜氏が助かった未来があったとして、マシュー氏と同じ行動を取ったならば非難轟々かつ日本で平穏に暮らすことも難しくなりそうだ。僕自身、おぞましい行動であると思ってしまう。報道によると湯川氏も功名心が強かった人物だったそうだが、同様にマシュー氏も功名心が強いと映画内で独白している。功名心を満たしてくれているのがSNSなどのWebサービスであり、彼の周りの兵士達も功名心を満たすためにSNSにアップロードするための写真を撮りまくっていた。
広場の中心で重機関銃を乱射する男性を携帯電話で撮影している様子。
重機関銃は固定して使用する兵器だ。当たり前だが戦場で目立つ行動をするのは死に直結する。強力な兵器を操る男らしい姿を撮影し、知人友人に誇りたいだけなのである。
リビアの解放運動に限らず、シリア内戦にも見られることだがYoutube、Twitter、Facebook・・・携帯電話で撮影したチープな戦場の写真で溢れている。指で数え切れないほどに戦死者がいるにも関わらず、戦場のような戦場でないような、まるでFPSをプレイしているような軽薄さがある。戦場のスペクタルが永遠に広がっていくような錯覚すらある。
1994年公開の青春映画『リアリティ・バイツ』では不況に苦しむ若者の姿が描かれた。大卒後就職出来ない者が出始めた時代だ。モラトリアムと満たされない感情。20年後に描かれたのは功名心を満たすために自身と戦場が同化することだった。*1
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