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なつやすみ日記

猫のような日々

地域社会とコミュニティのはなし

黄金町の試聴室という喫茶&レコード酒場が閉店する。

音楽評論家の岡村詩野さんが言及しているように日本のインディロックが好きな人にはそれなりに知られている場所だ。

大家のNPOとは黄金町エリアマネジメントというまちづくり会社のようだ。設立する経緯は各々異なるが、全国的に設立されつつある組織の一つである。まちづくり・・・まちおこし・・・シャッター商店街の問題解決・・・地域社会の問題を解決するのを目的としているようだ。この手の社会活動に関心がある人は知っているが彼らは決まってアートや音楽を町おこしの手段にする。これはジェントリフィケーションと言われている手法だ。 

都心近接低開発・低所得地域(インナーシティ)に上流サラリーマンや若手芸術家など、都市の活性化を引き起こすキーパーソン(=ジェントリファイヤー)が移り住むことで、自然治癒的に地域環境が向上する。典型的な事例として、ニューヨーク市が挙げられる。1950年代、工場や倉庫の廃屋が並び立つSoHo地区に安価な居住を求めて芸術家やミュージシャンが移り住み、カウンターカルチャーの中心地となった。それによって地域に文化的、社会的な高級化がもたらされ、求心性を獲得した地区には中産階級が流入する。さらに彼らを対象にした商業施設が増加し、結果、住区では低所得者層から中・高所得者層へと居住者の階層の入れ替えが起こった。こうした地域の高級化は、持続的なインフラの整備や治安の向上などの恩恵をもたらすため、都市の不動産から投機的な利益を得ようとする人々や、都心部に中・高所得者住民を定住させ、雇用機会を確保しようとする行政側に歓迎される。

ジェントリフィケーション | 現代美術用語辞典ver.2.0

 

端的に言ってしまえば街の再開発にアートを使うことである。といっても日本の美術市場は米国や欧米と比べると微々たる物で現代アートに限っては会田誠ですら企業の係長レベルの年収だそうだ。というか現代に生存している芸術家の常設展がほとんど存在しないことは日本に生きている誰もが知っている。美術館が展示している作品は古いものばかりだ。そもそも美術市場がほとんど存在しないのに文化的価値や社会的な高級化が高まるのだろうか?先日、行政がシリコンバレーに憧れてコワーキングスペースを作りまくっているというエントリーを投稿した。米国の都市部は家賃が高すぎてオフィスを借りれないから仕方なくコワーキングしているのだけではないか、と書いたがアートや音楽でまちづくりをするのも同じ話だろう。社会的背景を見ずに耳触りの良い結果だけを輸入して実行に移しているのだろう。 Facebookの創設者のようにWebサービスでミリオネアになろう、アンディ・ウォーホルのように何十億円で取引される作品を作ってミリオネアになろう、ハリウッドでスターになってミリオネアになろう・・・欲望が渦巻いた人間が集まった結果、憧れのスター達がいる地域の不動産価格が高騰するのは容易に想像できる。みんなそこで一発当ててやりたいからだ。*1

 

そうえいば黄金町の試聴室はNPO側から「黄金町(地域)での活動に貢献していないと」と指摘されたそうだ。ここである論文を引用したい。

都市社会学のパーソナル・ネットワーク論の知見では,制約の大きい既婚女性,高齢者,社会経済的地位の低い者は〈場所に根ざしたコミュニティ〉を形成しがちであり,制約の少ない男性,若者,社会経済的地位の高い者は〈場所を超えたコミュニティ〉を形成しがち(松本,2001:81)であることが明らかにされてきた。この知見を裏返してみると,社会的条件が不利な層に対して,セーフティネットとして〈場所に根ざしたコミュニティ〉を強化するべきだという主張も十分説得力を持つはずだ。

人間発達学研究 第3号 コミュニティと排除(上) 松宮 朝 P45

 

 

 

場所に根ざしたコミュニティとは地域社会のことであり、場所を超えたコミュニティとは時間や空間に制限を受けにくいコミュニティのことである。少し分かりにくいかもしれないがようは電車や車に乗れるか乗れないかの差異である。例えば黄金町の試聴室は全国から出演者を呼んでいる。お客さんは東京圏に住む人たちを大勢呼んでいるだろう。場所に囚われていないということがわかるだろうか?一方で専業主婦は街から出る必要もないし、仮に働いていたとしても既婚女性の正規雇用率は低いため郊外のベッドタウンのスーパーか何かでパートをしているケースが増えてしまう。そのため地元のコミュニティと密接な関係になりがちだ。既婚女性,高齢者,社会経済的地位の低い者が地域社会とコミットしやすい理由は引用先が引用している論文集『都市化とコミュニティの社会学』に詳しく分析している。百聞は一見にしかず、FAAVOという地域社会のコミュニティのためのクラウドファンディングサービスを見てもらえば理解するだろう。

地域 × クラウドファンディング | FAAVO(ファーボ)

 

見ているとうんざりな気分になってくるがこれが地域社会というフワッとした言葉の正体だろう。既婚女性,高齢者,社会経済的地位の低い者がコミュニティの中心にいる。経済の基本原則として資本主義はヒト・モノ・カネの流通を活発にすればするほど経済は活性化しやすい。地域から動けない彼らが有益な経済活動が出来るのだろうか。投資している人たちを調べると地域社会の友人達であったりするのだ。カネやヒトも地域から動いていないのだ。

 

黄金町が廃れた理由は風俗街を徹底的に取り締まったからだそうだ。少なくとも風俗街は地域の外から人間を呼びお金を落として経済を活性化させる側面がある。なぜなら必然的に風俗街で働く人達やお客さんのために飲食店も栄えることになるからだ。が、地域社会の住民自身がつぶしてしまったそうだ。まるで間抜けではないかと嘯きたくもなるが、一つわかることがある。地域外から人間を呼ぶのを好まないという可能性、そして自分たちの地域を綺麗にしたい、彼らが思うままに貢献してほしいという欲望が垣間見える。

 

日本全体で問題になっている空き店舗の大家は経済的に困っていないため空き店舗になっていることがほとんどである。本当に経済的に困っているのであれば売却して全国チェーンのファーストフードかコンビニになっているからだ。そして、先ほどの論文を参考にすれば地域社会に高くコミットしているのは高齢者か既婚女性である。経済的には困っていない、彼らが儲かる風俗街を排除しても何も困らない立場だ。

 

黄金町のアーティストインレジデンスをざっと眺めると地域社会の外部から人間を呼んでいる団体は多くはない。あと、気になったのが地域の啓蒙運動や盛り上がりに欠ける地域のアートイベントに参加している人達が目に付いた。

穿った見方だが、地域の外からたくさんの人を呼んでいて目障り、あいつら地域の活動だってロクに参加しないのに・・・地域社会側はこんな風に思っているのかもしれない。実際、前年までNPOが発行する冊子に載っていたにも関わらず2011年に突然紹介ページに載らなかったという不穏な事件が起きている。

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アニュアルレポート発売中! | 黄金町エリアマネジメントセンター|KOGANECHO AREA MANAGEMENT CENTER

詳しい事情はわからない。憶測にしかならないが、ただ一つ言えるのは場所に根ざしたコミュニティ場所を超えたコミュニティがコンフリクト(紛争)を起こしたということではないだろうか。場所を超えたコミュニティには多くの若者がいたし、それなりに名を馳せる人たちもいた、それが地域に縛られている人たちによって壊されてしまったように思えてしまった。全国に散らばるまちづくり会社によるアート活動から誰かを感動させるような物は僕は見たことがない。なぜなら脱臭され尽くされた人畜無害で退屈な物ばかりだからだ。危ないアートはできない、理由はもちろん・・・・。

 

手軽に手に入る場所を超えたコミュニティはインターネットを使えば簡単に作れる。経済的資本は無くても平気だ。文化的資本があればいい。インターネットから始まるユースカルチャーが台頭するのは自然なことだ。一方で場所を超えた人達は身体性を失いつつある。それで本当にいいのだろうか。

「お前はそこで生まれたからといって、そこに居続けなければならないのか? 

INU 305

www.youtube.com

 

 

追記

 

阿川大樹氏曰く風俗街を撤去させてマンションを建てて住民増加させる間の徒花でしかないそうだ。 Togetterを見る限りは住民や税収を増やしているし、無戦略で施策しているわけではないみたいだ。

togetter.com

といってもまちづくり会社に2008年以降から累計20億円以上の税金が投入されている。おまけに寄付も募っているが会計報告は公表されていない。 税金を注ぎ込んだことによる具体的な成果を第三者がまとめるのは異常なことだ。NPO側がまとめるのが本筋であるが、単純に彼らの目的と違うから公表していないのである。

 

10plus1.jp

 

プレディみかこ氏が述べているようにジェントリフィケーションは排除を伴う。ジェントリフィケーションの目的は地価の上昇だ。空き店舗や空き家など様々な問題定義はブラフになっており、徒花としてアートを使って邪魔な人間を排除する。そしてマンションのような効率的に多くの人間を収容できるスペースを建設する。全国各地のまちづくりが成功しているか、失敗しているか、是非はともかく、このような目的やリスクを公表しているところを僕は知らない。 

*1:追記参照。実は邪魔な人間を排除することで地価を上げることが目的だったりもする